小説?

練習ってやつね
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 私はイライラしていた。
正確に言うと、「私達」は、その日多少イライラしていた。
大きな、向こう岸から村に渡るつり橋の上で、私達は言い争っている。
春なのに朝から物凄い雨で、村の人はみんな家に入っていた。時間は正確には分からないけど、お昼過ぎくらい。
相手の顔はよく見えない。でも、とてもよく知っている誰か。
口喧嘩の最中だと言うのに、私の意識は村の入り口の簡素な門の上を飛んでいる、何羽ものカラスに集中していた。
雨なのに、カラスの群れは旋回を続けている。
聞いてるのかよ。
そんなコトバが聞こえた気がした。次の瞬間、私の視界は濃い青に染まり、すぐに真っ暗になる。
 
 
 本日は今年一番の猛暑である。
私、琴子と由里は登校中。土曜日につき授業開始は10時40分。
いつものとても長い、しかも今日は加えて暑い、坂道を上っている。
日は雲に隠れて、暗鬱でじめじめとした空気が私達を取り囲んでいる。
 
「アスファルトの……坂道の向こうがゆらゆら見えるのってさ」
 私はうつろな気分でつぶやく。
「なんて言うんだっけ」
「……知るかー」
 
 当然と言えば当然の答えが返ってくる。
だが、私にとっては物凄く重要なことなのだ。
 
「今さ…レポートのさ」
「何の?」
「現代文。その部分だけさ、空欄なの」
「そのアスファルトが、の部分が?」
「そう。長々書いたらダサいっしょ」
「ヤマオーに訊けー」
「あいつ……出張行ってやんの。課題出しといて、質問は受け付けねーっつー態度」
「そっかー。とりあえずあたしは分かんねーやそれ」
 
 由里はこの暑いのにからからと笑っている。
二学期評定ほぼ満点だったくせに……カマトトぶってる。
あれ?カマトトぶってる、であってるんだっけ?
 
「ヤマオーもさぁ……もう一日早く課題出してくれりゃあ」
「ついでにもう一日早く帰ってくりゃいいのにねぇ」
「……今あんた含みあっただろ」
「ないない、ないよー」
 
 私が水平に振り回したカバンを屈伸運動で華麗に避けながら、由里は笑い続けている。こいつ、汗をかかないのか……?
ヤマオーの鼻の穴から突き出た一本の毛に躊躇してテスト返し時にとっさに目を逸らしてしまって以来、クラスでは変な噂が立っている。
全く、迷惑な話……
溜息を、マンガのようにつく。
まだ午前も半ばなのに、額にじっとりと汗が滲んでいる。張り付く前髪が鬱陶しい……
 
「それより、後ろの男子。たぶんコトに気がありますねぇ」
「……あぁー!?何を……」
言いかけて、止まる。由里が珍しく真面目な顔をしている。
「本当。あたし彼よく見るよ、主にあんたの付近で、あんたのことを熱っぽく見つめてるの。同じクラスだろ?」
ゆるーく飛んでくる、由里の右ストレート。
「何をまた……なんで武田君が」
棒立ちで、胸で受ける。
「へー、やっぱ知ってるんじゃん」
由里が、いつものニヤけた顔に戻る。
「やっぱってなによ」
確かに、武田君には良い意味でそれなりに因縁があるけど、でもだからって好意を持たれるようなことは……あるか。
あたしは、ちょっと困っている。困って、空を見上げる。
 
いつのまにか、空はすっかり青くなっていた。
 
 
 
 
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あまり見ないで下さい><
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